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野外博物館。オスベルグの海賊船《ヴァイキング・シップ》。
雨後・坂みち・さむぞら。
フログネルセテレンとフォクセンコウレンの山へのぼる。郷土偉人トマス・ヘフティの公開寄附した森林公園で、ほうぼうにオスロ青年団の建てたへフティを記念する石柱がある。白樺、落葉松《フウ・ルウ》の木。桔梗《ききょう》、あざみ、しだ[#「しだ」に傍点]の類。滝、小湖、清水のながれ、岩――首に鈴をつけた牛が森の小路で人におどろいている。かみの毛の真白な子供たち。山上からフィヨルドは一眼だ。鳥瞰すると小群島と半島の複雑さ。
カアル・ヨハンス・ガアドのつき当りに宮殿がある。そのまえの公園にイブセンの物で有名な国民劇場。両側にイブセンとビョルンソンの像。両方とも考えぶかそうに直立して、イブセンの肩に落葉が一枚引っかかっていた。
イブセンと言えば、諾威国立博物館《ノルスク・フォルクミウザム》本館の階上で、イブセンの書斎を見た。死後そのままここに移したもので、窓かけも椅子も敷物も茶っぽい緑の一色、簡素な部屋だ。原稿もすこし保存してある。
ウレウェルストファイエン街の墓地に、イブセンとビョルンソンのお墓詣りをする。
広い墓地内をうろうろしてようよう探し当てたイブセンの墓は、白樺の疎林を背に生垣と鉄鎖の柵をめぐらした広さ六坪ほどの芝生の敷地に、左右の立木に挟まれて高さ三|間《げん》あまりの上の尖《とが》った黒い石が立っていた。石の表面に鉄槌《てっつい》の彫刻、根にダリヤとデエジイと薔薇と百合の花束をりぼん[#「りぼん」に傍点]でしばった鉄の鋳物、下の平石に HENRIK IBSEN と読める。右に祭壇、左に夫人の墓石――枯葉が散りかかって、ごみのような小さな羽虫《はむし》が一めんに飛んでいた。
すこし離れた小高いところに、ビョルンソンの墓。これは巨大な平面石が、白樺の大木の下に半分|蔦《つた》におおわれて倒れている風変りなものだ。階段が上部をかこみ、石の旗が下を飾って、中央に Bjornson, 1832−1910 と彫ってある。すべてが立体的に凝った感じである。
小さな松の林に小鳥が下りて、朝日に葵《あおい》が咲いていた。土の香と秋晴の微風。参詣の人がちらほら見えて、喪服の女が落葉を鳴らしてゆく。赤や黄の前掛に手拭《てぬぐい》のようなものをかぶった老婆達が、そこにもここにも熊手を持っ
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