で済む。それじしんさまざまな小事件と感情とをつつむ一つの社会であろう。だから「老齢の都」という。この「都会」の窓から、その老市民たちが弱々しい手をふる。市役所の空地には子供と鳩との歓呼の声があがる。すると、それらに応えて、ひとりのせいの高い紳士が、そこの町角に立ち停まって笑いながら帽子に手をやっている。王様だ。コペンハアゲンの街上で人なみ外れて長身の紳士に出会ったら、現陛下クリスチャン十世と思って間違いない。じっさい陛下は普通人より首ひとつ高く、そして暇さえあるとひとりで町を歩くのが、その何よりの Royal hobby だからだ――こうしてこの「老人の町」と市役所の鳩と子供らと、微笑する巨人王クリスチャン十世陛下とを結びつけて、そこに一風景を心描するとき、私は、コペンハアゲンの、というより丁抹《デンマーク》の全生活をはっきり[#「はっきり」に傍点]と見るような気がする。
 もう一つ他の頁。
 夜。一|哩《マイル》の長線道《ランゲリイネ》を自由港まで散歩。片側は城砦。いっぽうは海峡の水。コペンハアゲン訪問者の忘れてならない一夕《いっせき》のアドヴェンチュアだ。
 附録の1。
 七|哩《マイル》北に丁抹《デンマーク》が国家的に誇っているリングビイの教育都市。グルンドトリッグの国民高等学校・リングビイ農業学校・丁抹《デンマーク》国立農民博物館・SETO。
 附録の2。
 二日がけでフィエン島のオデンス市へ。バングス・ボデル街のかどにH・Cアンデルセンの生家。いまは彼の記念博物館。小父さん小母さんの聖地《パレスタイン》だけに日本の「おじさん」巌谷小波《いわやさざなみ》、久留島武彦《くるしまたけひこ》なんかという名刺も散見。グラアブルダ・トルフ街郵便局のそばに、またアンデルセンの像。
 附録の3。
 買物。コペンハアゲンには世界的に権威ある店が二軒ある。ともに陶器店で、ロウヤル・ポウセリンとケエレル。妻は、日本へ帰ってからお菓子鉢にしたいといって、オステルガアドのケエレルで波斯青《ペルシャン・ブルウ》の一器をもとめる。
 ついでに、旅行中彼女の集めているものを列挙すると、第一に、方々の郷土服を着けた人形。第二に各地の|手提げ《ハンド・バッグ》、第三に――これはぜひ特筆大書を要する――各国婦人の美点。
 私の「趣味の蒐集」――巻煙草の空箱《あきばこ》。見聞。「がいはくなちしき
前へ 次へ
全33ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング