ウルンの村落へ立ちいでた。
そうするとやはり往還すじに馬糞がダンスし、そのなかを猫が悠歩し、猫に向日葵《ひまわり》が話しかけ、木と家と乾草の塚と私たちの影が、いたずらにくっきりと地を這って、白日に物音ひとつなく、こうしてあるいていてもいつかうとうと[#「うとうと」に傍点]と眠りそうになる。それでも私は、カイゼルに出会い次第取るべき態度、いうべき文句の数々を心中ひそかにととのえていた。何でもいいから見つけるや否、敬意と質問を引っさげて猟犬のごとくどこまでも肉迫することだ。そう私は決心していた。
せまい村うちだから、すぐにカイゼル幽閉の家のまえへ出た。ちょっと土地の豪農といった構えで、アウチ風の門に門番が立っている。私がきく。
『EX・カイゼルはいまいますか。いま何しています?』
彼は笑って答えない。しばらくしてこんなことを言った。
『薔薇園《ロザリアム》を見せてあげましょう――カイゼルのばら[#「ばら」に傍点]畠を。』
そして切符のようなものを二枚渡してくれたので、念のため、
『幾らですか。』
『おぼしめしで結構です。』
思うにカイゼルへのお賽銭《さいせん》であろう。そばに一
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