ニ、このホテルへなぞ毎日のようにやって来て、そこの椅子に――とパブスト氏は応接間《パアラア》にある奇妙な三角形の椅子をゆびさして――半日でも腰をおろして世間ばなしをして行く。が、それは多く冬のことで、夏はあんまり外出しないようだ。それでも絶対に出てこないとは限らない。現に十日ほど前もぶらり[#「ぶらり」に傍点]と這入って来て、子供――パブスト氏には七、八つの女の児がある――の頭を撫でたり、アムステルダムの新聞を読んだりして帰って行ったから、ことによるとまた今日あたりひょうぜん[#「ひょうぜん」に傍点]と入来しないともいえない。もとより必ずくるとは断言できない。しかし、こうしているうちにも、そこらへぬうっ[#「ぬうっ」に傍点]と出現するかも知れないし、そうかといって、運がわるければ、何日待っても一歩も邸《やしき》のそとへ出ないこともあろう。だから、どうせ来たものだから、今夜はゆっくり一泊して機会の到来を祈るがいい――とこういうのだ。そして、老人はつけ足した。
『オウルド・ビリイはこの客間がばかに気に入りましてね、お屋敷のなかへこれとおんなじ部屋を一室つくらせましたよ。』
そういって彼は
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