Aよろしく召上れと名刺をつけて、給仕を私たちのホテルへつかわし、日本醤油《ヤポン・ソウヤ》――ヨコハマ太田製FUJI印し――の一瓶を贈ってくれた――何をいうにも旅中の身、はなはだ心苦しい次第だが、これはまた貰いっぱなしになっている――りなんかして、その「ソウヤ」はばかに塩辛く――というわけ。そこで話を醤油からカイゼルへ戻すと、これが縁で短期の交際を開始した私たちとヴァン・ポウル氏が、一夕ファイエンダムの大通りを散歩しながら、
 私『この田舎のドュウルンに。』
 氏『ええ。カイゼルがいますよ。ドュウルンは私の故郷で、このあいだもちょっと帰ってきました。』
 私『それあ有難い! あなたの御尽力で彼に会えないでしょうか。』
 氏『彼って、カイゼルにですか。会ってどうするんです?』
 私『どうってただあいたいんです。ぜひ一つ何とかして下さい。』
 氏『さあ、困りましたな。私もべつに識《し》っているわけではなし、公式に面会を申込んだって、勿論そりゃあ全然駄目にきまってますし――。』
 と、暫時《ざんじ》沈思黙考していた氏が、ああ! お待ちなさい、いいことがある! と傍らの珈琲《コーヒー》店の食卓
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