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「飛行史上に大きな謎
  原因不明の旅客機墜落
    眼もあてられぬ現場」
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 Enough !
 だが、これらは不必要な、恐怖のための恐怖、単なる不吉のための不吉で、言わばたぶんの変態的興味をふくんでいるかも知れないが、つぎに私は、このチャアルス街エア・ハウスの第一歩に、AHAGH! より[#「より」に傍点]精神的に深刻な悩みをくぐらなければならなかった。
 科学はいま人間をいい気にあまやかしている。一たい、この思いあがったちょこ[#「ちょこ」に傍点]才《ざい》きわまる科学を過信し、あの、生を享《う》けて以来頭上にいただいてきた大空へ、図々しくもぬけぬけ[#「ぬけぬけ」に傍点]と舞い上ったりしてもいいものだろうか。それとも、原始人の恭敬篤実なこころにかえり、天を懼《おそ》れ頭を垂れ、鞠躬如《きっきゅうじょ》、かたつむりのごとく遅々として地を往くほうが、すくなくともこのさい「穏当」ではなかろうか。惟《おも》うに、人類――ことに東洋の――にとって、空は直ちにみそら[#「みそら」に傍点]であり天上であり、すでに立派に宗教概念の領域に属する。
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