ヤ場まえの裸像の噴水、兵卒のような巡査、駈けよってくる花売り女――騒音は都会の挨拶《グリイテング》だ。
 ちがった外見の、けれど内容のおなじ生活がここにも集合している。しみじみそういう気がする。そのせいだろう、もしそのとき君が、前に一度、夢でか現実にか、この町へ来たことがあるような気がしたら、そしてまた、家のならびや往来の走りぐあいが君の想像していたところと全く同一なら――多くの場合そうだが――君はどんなにその町を愛し、そこに狎《な》れ親しんでもさしつかえない。君はすでに町をつかんでいるからだ。
 このあたらしい都会でぴたり[#「ぴたり」に傍点]とくる感じ――私はそれを町の顔と呼ぶ。
 へんなことには、都会の顔は近代化した大通りや、いわゆる「|見物の場所《プレイス・オヴ・インタレスト》」にはけっして見られない。老婆と主婦と雑貨と発音が鳩といっしょに渦をまく朝の市場、しみ[#「しみ」に傍点]だらけの歪んだ壁と、小さな窓と、はだしの子供たちの狭い裏まち。それに坂だ!――私はどうしてこう坂と横町と市場が好きなんだろう?――これらに私は、じいっ[#「じいっ」に傍点]と私を見つめている「町の顔」
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