《リヴァ》!
何もかも知っていて
だがしかし黙って
ただじっと流れてゆく
お前は河《リヴァ》のお爺さん
[#ここで字下げ終わり]
――河《リヴァ》はあのミシシピのことだ。いま倫敦《ロンドン》のドルウリイ・レイン座は、エドナ・ファウバアの小説からとった、亜米利加《アメリカ》渡来の楽劇「芝居舟《ショウ・ボウト》」を演《だ》して大当りを取っているが、そのなかでポウル・ロウブスンという黒人のテノルが歌う「河の唄」が人気を博して、ここでこの真珠王と女王がうたっているのもその「芝居舟《ショウ・ボウト》」の一節だった。
ま、これもどうでもいいとして――。
自動車は五|志《シリン》かそこらでそとへ預《パアク》しておくことも出来るが、私たちは、青年ブリグスがこすく立ち廻った結果、大観覧席のすぐまえ、コウスに近いところへ割り込んで行って、車に乗ったまま見物することになった。すると、どこからともなく一人の女が切符をもって場所代を取りにくる。一|磅《ポンド》というのをこれはナオミ・グラハム夫人が十五志に値切り倒したが、これらの人は、競馬のときだけエプソム・ダウンのコウスに沿った何英町という土地《ラット》を細ぎりに借りて、当日じぶんの借地へ自動車がとまるのを待って一車一日いくらと徴収し、多くはそれで一年の生計を立てているのだ。したがってその人々は、毎年、とよりも、家によって代々世襲のわけで、ここらがはなはだ英吉利《イギリス》の、そしてダアビイらしい――なんかちょっと感心しながら、またがり[#「またがり」に傍点]にしろ、これでいぎりすへ来て土地まで借りているというので大いに意を強うし、あらためて傾斜から丘の頂上を眺めると、色と人と音の渦の中央にいるんだから、まるで曲馬団の舞輪《リング》へ抛《ほう》り出されたようで、あちこちに廻転木馬・輪投げ・動揺椅子・電気るうれっと・糸引き・人形撃ち・玉ころがしなどのゲイムの小屋が茸《きのこ》のようにすくすく[#「すくすく」に傍点]と建ってそれぞれに客をあつめ、楽隊と木笛と風船の音が世界を占め、それらに君臨して螺旋《らせん》すべりの塔が高く中空を抜いて、賭取人《ブック・メイカア》の色傘と黒板と嗄《しゃが》れ声とにきょうの日はさんさん[#「さんさん」に傍点]と降り――ジプシイの女がショウルをかけて、人波をわけている。多くは赤んぼ――ジプシイの――を抱いてい
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