@芸術座ではイフゲニイ・ザミアチンの「蚤《ブロハア》」をやっていた。
 第八日。
 クスタリヌイ博物館と、夜はメイエルホルド座――「証明書《マンダアド》」の今年のシイズンにおける何回目かの上演だ。花道と廻り舞台。木の衝立《ついたて》だけの背景。にせ[#「にせ」に傍点]共産党員の家庭を描いた喜劇で、一枚の額のうらおもてに聖像とマルクスの顔が背中あわせに入れてあったりする。
 第九日。
 トルストイの家――一八八一年から一九〇〇年までの彼の住宅がモヴニチエスキイ通りにある。ツウェトノイ大街のドストイエフスキイ像、農民の家、子供の家、バルチック停車場に近いナポレオンの凱旋門――一八一二―一四年の建造とある。
 夜、カレイトヌイ座にフィヨドル・ゴラトコフの映画「せめんと」を観る。
 第九日の印象。宣伝と革命記念物の洪水。いささか食傷の気味だ。
 第十日。
 猛烈な晴天である。きょうも新寺院の屋根がちかちか[#「ちかちか」に傍点]光って、モスコウ河に巨大な氷が流れている。電車で郊外|雀が丘《ブロビア・ガラ》へ出かける。ここからナポレオンが手をかざしてモスコウの大火を望んだという現場だ。小高い丘の
前へ 次へ
全64ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング