フ法律に準拠して番人《ドア・マン》が案内し、労農政府の法律に準拠して哀訴嘆願の末ひとつの部屋を貰う。すべてが労農政府の法律に準拠して動くのだ。もし法律が足らなければいくらでも拵《こしら》える。こしらえると言ったって法律や組合は金がかからないからどんどん産業的に多量製産している。このホテルだって全露移動人民宿泊便宜組合|莫斯科《モスコウ》支部第何区所属で、略称セレクトフスカヤとか何とかいう実はお役所の一種に相違あるまい。無産の料理を与えられて、無産のお湯へはいり、無産の寝台に寝る。どうせいままで「略取」されて来たと信ずる「階級」の仕事だから、今度はさかんに「略取」する。無産の室代《へやだい》八|留《ルーブル》。無産の牛酪《バタ》一|片《きれ》――厚さ二分弱一寸四方――五十|哥《カペイカ》――牛乳――とよりも些《いさ》さか牛乳に似た冷水――が一合日本の二十四銭。チョコレイト――わが国において金五十銭ぐらいのもの――が約八円。女の靴最低四十|留《ルウブル》より。
 第一日の印象。そ※[#濁点付き平仮名う、1−4−84]ぃえと・ろしあに多すぎる物、議論。すくな過ぎるもの、麺麭《パン》。
 第二
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