謔ュ押し出した――とまあ思いたまえ。
運命をともにする同車の日本人|諸彦《しょげん》――車室順。
A氏。日本橋の帽子問屋さん。汽車が走ってるあいだは花と将棋。停まるが早いか駅々から故国にほん[#「にほん」に傍点]へ懐しい便りを投ずる。口ぐせ「馬鹿にしてやがら、露助の汽車なんて。」
M氏。銀座の洋物店M屋の若旦那。Aさんと同伴で商売発展の準備にチェッコのプラアグへ行く途中。鞄《かばん》から色んなものが出る。山本山《やまもとやま》の玉露・栄太郎の甘納豆・藤村《ふじむら》の羊羹《ようかん》・玉木屋《たまきや》の佃煮《つくだに》・薬種一式・遊び道具各種。到れりつくせりだ。「お前、西洋へ行くなら盲唖学校へはいって、あのそれ手真似、あいつを覚えときゃよかった。あれなら、どこい行っても国際語だから、なあんて友達のやつひでえことを言いますよ。あははははは。」ところが御曹子。外国語がぺらぺらである。
O教授。K大学法学部の若い先生。しきりに沿線各駅で子供の絵本を買いあつめる。おせっかいなのが「坊ちゃんですか、お嬢さんですか。」教授、猛烈な近眼をぽかんとさせて「え? じょ、冗談じゃありません。まだ
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