燒髓のせいだろう。それでも国境駅だけあって薄ぼんやりした電灯に非常に重大な気分が漂っている。税関検査。案ずるより生むがやすい。
 マツェフスカヤ――町も私も眠っていた。
 カリムスカヤ――オノン河の鉄橋。
 チタ――人口八万。停車場と銀行と学校と博物館とホテルあり。臭い群集。
 ウェルフネウジンスク――一度で言えたら豪《えら》い。セレンガ河の岸。ブリヤアト・モンゴウル・ソヴィエトの首府。東洋と西洋の奇妙なカクテルがぷんぷん香《にお》っている。
 スリュジャンカ――小駅。バイカル湖風景車窓に展開し出す。
 バイカル――四十六の隧道《とんねる》。水色美とハヒルスという魚を自慢にしている。アンガラ河。
 イルクウツク――砂金。ヤクウツクとかへ行く道だそうだが、そんなことはどうでもいい。とにかく学校と銀行と市場と博物館とホテル。OH! それに劇場がある! やはり、皮くさい男と女と子供。
 クラスノヤルスク――エニセイ河。豚の毛の集散地。人もかなり住んでる。
 アウチンスク――白樺にかこまれた町。
 タイガ――これも白樺にかこまれた町。
 ノウォシビルスク――満洲里《マンチュリー》から五日目。オビ河。シベリア革命委員会。駅の売店で果物だけは買うべからず。オレンジ一個七十|哥《カペイカ》して、よほどの好運児のみが食べられるのに当る。
 バルナウル――羊皮外套《バルナウルカ》。
 セミパラチンスク――イルトゥイシ河沿岸。キルギス人多し。金に光る回々《フイフイ》教寺院の月章。砂ぶかい大通り。駱駝《らくだ》のむれ。三角の毛皮帽をかぶったキルギス族遊牧の民。カザクスタン共和国の、クリイム。
 オムスク――むかしシベリア政庁のあったところ。車や家のこわれたのがあちこちに見える、革命のあとだ。空は秋の色をしている。
 チュウメン――トウラ河。チュウメン絨毯。土、日ごとに黒くなり、人、日ごとに白くなり、このあたりよりようやく欧露に入る。
 スウェルドロフスク――もとのエカテリンブルグだ。ニコライ二世はじめロマノフ一家が殺された町である。宝石アレキサンドリアを売っている。皇帝の泪《なみだ》が凝り固まっているようで、淋しい石だ。ウラルの風。
 ペルミ――黒い低い街。
 ヴィヤットカ――おなじく黒く低い街。白樺細工の巻煙草箱一|留《ルーブル》五十|哥《カペイカ》より。みんな買う。私も買う。
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