ぼうっとしているわね。冗談一つ言えやしない。
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ニイナは降りて行く。安重根は片手に鏡、片手にカンテラを取り上げて黙って顔を映して見る。長い間。
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柳麗玉 その鏡どうなさるの?
安重根 屋下《した》へ降りて、もう一度最後にあの変装をして鏡に映してみようと思って――。
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あわただしい跫音とともに昂奮した禹徳淳が物乾し台へ駈け上って来る。
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禹徳淳 (安重根の腕を取る)おい! いま東夏のやつが調べて来た。とうとう決まったぞ。明日《あす》の晩か明後日の朝、出迎えの特別列車がハルビンから長春へ向って出発する。
安重根 (禹徳淳の手を振り放して、ぼんやりと)そうか――。
禹徳淳 (いらいらして)どうしたんだ君あ! (どなる)こんな素晴しいレポがはいったのに何をぽかんとしている。
安重根 (間。禹徳淳と白眼み合って立つ。急に眼が覚めたように)徳淳! それはたしかか。すると、その汽車で来るんだな。(考えて)途中でやろうか。
禹徳淳 (勢
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