陣ならんとは、平家の人々いかで知るべき。高倉《たかくら》の宮《みや》の宣旨《せんじ》、木曾《きそ》の北《きた》、關《せき》の東《ひがし》に普ねく渡りて、源氏|興復《こうふく》の氣運漸く迫れる頃、入道は上下萬民の望みに背《そむ》き、愈々都を攝津の福原に遷《うつ》し、天下の亂れ、國土の騷ぎを露《つゆ》顧みざるは、抑々《そも/\》之れ滅亡を速むるの天意か。平家の末はいよ/\遠からじと見えにけり。
 右兵衞佐《うひやうゑのすけ》(頼朝)が旗揚《はたあげ》に、草木と共に靡きし關八州《くわんはつしう》、心ある者は今更とも思はぬに、大場《おほば》の三郎が早馬《はやうま》ききて、夢かと驚きし平家の殿原《とのばら》こそ不覺《ふかく》なれ。討手《うつて》の大將、三位中將|維盛卿《これもりきやう》、赤地《あかぢ》の錦の直垂《ひたゝれ》に萌黄匂《もえぎにほひ》の鎧は天晴《あつぱれ》平門公子《へいもんこうし》の容儀《ようぎ》に風雅の銘を打つたれども、富士河の水鳥《みづとり》に立つ足もなき十萬騎は、關東武士の笑ひのみにあらず。前の非《ひ》を悟りて舊都に歸り、さては奈良|炎上《えんじやう》の無道《むだう》に餘忿《よ
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