何れか戀の炎《ほむら》に其躯《そのみ》を燒き蓋《つ》くし、殘る冷灰の哀れにあらざらんや。女子の性《さが》の斯く情深《なさけふか》きに、いかで横笛のみ濁り無情《つれな》かるべきぞ。
 人知らぬ思ひに秋の夜半《よは》を泣きくらす横笛が心を尋ぬれば、次の如くなりしなり。
 想ひ※[#「※」は「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11、52−5]《まは》せば、はや半歳の昔となりぬ。西八條の屋方《やかた》に花見の宴《うたげ》ありし時、人の勸《すゝ》めに默《もだ》し難く、舞ひ終る一曲の春鶯囀に、數《かず》ならぬ身の端《はし》なくも人に知らるゝ身となりては、御室《おむろ》の郷《さと》に靜けき春秋《はるあき》を娯《たの》しみし身の心惑《こゝろまど》はるゝ事のみ多かり。見も知らず、聞きも習はぬ人々の人傳《ひとづて》に送る薄色《うすいろ》の折紙に、我を宛名《あてな》の哀れの數々《かず/\》。都慣《みやこな》れぬ身には只々胸のみ驚かれて、何と答へん術《すべ》だに知らず、其儘心なく打ち過ぐる程に、雲井の月の懸橋《かけはし》絶《た》えしと思ひてや、心を寄するものも漸く尠《すくな》くなりて、始めに渝《かは》らず文
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