もの》、氣を外《そら》さず、『其の御心の強さに、彌増《いやま》す思ひに堪へ難き重景さま、世に時めく身にて、霜枯《しもがれ》の夜毎《よごと》に只一人、憂身《うきみ》をやつさるゝも戀なればこそ、横笛樣、御身《おんみ》はそを哀れとは思《おぼ》さずか。若氣《わかげ》の一|徹《てつ》は吾れ人ともに思ひ返しのなきもの、可惜《あたら》丈夫《ますらを》の焦《こが》れ死《じに》しても御身は見殺しにせらるゝ氣か、さりとは情《つれ》なの御心や』。横笛はさも懶《ものう》げに、『左樣の事は横笛の知らぬこと』。『またしてもうたてき事のみ、恥かしと思ひ給うての事か。年|弱《わか》き内は誰しも同じながら、斯くては戀は果《は》てざるものぞ。女子《をなご》の盛《さか》りは十年《ととせ》とはなきものになるに、此上《こよ》なき機會《をり》を取り外《はづ》して、卒塔婆小町《そとばこまち》の故事《ふるごと》も有る世の中。重景樣は御家と謂ひ、器量と謂ひ、何不足なき好き縁なるに、何とて斯くは否《いな》み給ふぞ。扨は瀧口殿が事思ひ給うての事か、武骨一|途《づ》の瀧口殿、文武兩道に秀《ひい》で給へる重景殿に較《くら》ぶべくも非ず。況《ま
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