たゞ》に重盛が杞憂のみにあらじ』。
『然《さ》るにても幾千代重ねん殿が御代《みよ》なるに、など然ることの候はんや』。
『否《いな》とよ時頼、朝《あした》の露よりも猶ほ空《あだ》なる人の身の、何時《いつ》消えんも測り難し。我れ斯くてだに在らんにはと思ふ間《ひま》さへ中々に定かならざるに、いかで年月の後の事を思ひ料《はか》らんや。我もし兎も角もならん跡には、心に懸かるは只々少將が身の上、元來孱弱の性質、加ふるに幼《をさなき》より詩歌《しいか》數寄の道に心を寄せ、管絃舞樂の娯《たの》しみの外には、弓矢の譽あるを知らず。其方も見つらん、去《さん》ぬる春の花見の宴に、一門の面目と稱《たゝ》へられて、舞妓《まひこ》、白拍子《しらびやうし》にも比すべからん己《おの》が優技《わざ》をば、さも誇り顏に見えしは、親の身の中々に恥《はづ》かしかりし。一旦事あらば、妻子の愛、浮世の望みに惹《ひ》かされて、如何なる未練の最期《さいご》を遂ぐるやも測られず。世の盛衰は是非もなし、平家の嫡流として卑怯の擧動《ふるまひ》などあらんには、祖先累代の恥辱この上あるべからず。維盛が行末守り呉れよ、時頼、之ぞ小松が一期《いち
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