に動搖《どよ》めきて、『あれこそは隱れもなき四位の少將殿よ』、『して此方《こなた》なる壯年《わかうど》は』、『あれこそは小松殿の御内《みうち》に花と歌はれし重景殿よ』など、女房共の罵り合ふ聲々に、人々|等《ひと》しく樂屋《がくや》の方を振向けば、右の方より薄紅《うすくれなゐ》の素袍《すほう》に右の袖を肩脱《かたぬ》ぎ、螺鈿《らでん》の細太刀《ほそだち》に紺地の水の紋の平緒《ひらを》を下げ、白綾《しらあや》の水干《すゐかん》、櫻萌黄《さくらもえぎ》の衣《ぞ》に山吹色の下襲《したがさね》、背には胡※[#「※」は「たけかんむり+録」、読みは「ぐひ」、第3水準1−89−79、5−8]《やなぐひ》を解《と》きて老掛《おいかけ》を懸け、露のまゝなる櫻かざして立たれたる四位の少將|維盛《これもり》卿。御年|辛《やうや》く二十二、青絲《せいし》の髮《みぐし》、紅玉《こうぎよく》の膚《はだへ》、平門《へいもん》第一の美男《びなん》とて、かざす櫻も色失《いろう》せて、何れを花、何れを人と分たざりけり。左の方よりは足助《あすけ》の二郎重景とて、小松殿恩顧の侍《さむらひ》なるが、維盛卿より弱《わか》きこと二歳
前へ
次へ
全135ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高山 樗牛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング