ず風評《ふうひやう》、平家の人々は今は居ながら生《い》ける心地もなく、然《さ》りとて敵に向つて死する力もなし。木曾をだに支《さゝ》へ得ざるに、關東の頼朝來らば如何にすべき、或は都を枕にして討死すべしと言へば、或は西海《さいかい》に走つて再擧《さいきよ》を謀《はか》るべしと説き、一門の評議まち/\にして定まらず。前には邦家の急《きふ》に當りながら、後《うしろ》には人心の赴く所《ところ》一ならず、何れ變らぬ亡國の末路《まつろ》なりけり。
平和の時こそ、供花燒香に經を飜して、利益平等《りやくびやうどう》の世とも感ぜめ、祖先十代と己が半生の歴史とを刻《きざ》みたる主家《しゆか》の運命|日《ひ》に非《ひ》なるを見ては、眼を過ぐる雲煙《うんえん》とは瀧口いかで看過するを得ん。人の噂に味方《みかた》の敗北《はいぼく》を聞く毎《ごと》に、無念《むねん》さ、もどかしさに耐へ得ず、雙の腕を扼《やく》して法體《ほつたい》の今更變へ難きを恨むのみ。
或日瀧口、閼伽《あか》の水《みづ》汲《く》まんとて、まだ明《あ》けやらぬ空に往生院を出でて、近き泉の方に行きしに、都《みやこ》六波羅わたりと覺しき方に、一道の
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