清見寺の鐘聲
高山樗牛

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)夜半《よは》の

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いよ/\
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 夜半《よは》のねざめに鐘の音ひゞきぬ。おもへばわれは清見寺《せいけんじ》のふもとにさすらへる身ぞ。ゆかしの鐘の音《ね》や。
 この鐘きかむとて、われ六《む》とせの春秋《はるあき》をあだにくらしき。うれたくもたのしき、今のわが身かな。いざやおもひのまゝに聽きあかむ。
 秋深うして萬山《ばんざん》きばみ落《お》つ。枕をそばだつれば野に悲しき聲す。あはれ鐘の音、わづらひの胸にもの思へとや、この世ならぬひゞきを、われいかにきくべき。怪しきかな、物おもふとしもあらなくに、いつしかわが頬に涙ながれぬ。
 間《ま》どほなる鐘の音はそのはじめの響きを終りぬ。われは枕によりて消ゆるひゞきのゆくへもしらず思ひ入りぬ。
 第二の鐘聲《しようせい》起こりぬ。夜はいよ/\しめやかにして、ひゞきはいよ/\冴えたり。山をかすめ、海をわたり、一たびは高く、一たびはひくく、絶えむとしてまたつゞき、沈まむとしてはまたうかぶ。天
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