明りでも普通《ただ》のものでない気がしましたので、手に取って見ると、果してそれは好いこなし[#「こなし」に傍点]で、こんな所に転がっているものではありません。片方の足が折れていましたが、値を聞くと、十銭といいました。妙なもので一円でも素通りは出来ないのに、八銭に負けろといったら、負けましたから、二銭つりを取って袂《たもと》に入れて帰りました。

 その後、私は右の不動を出して見ると、なかなか凡作でない。折れた足を継ぎ、無疵《むきず》にして、私の守り本尊の這入っている観音の祠《ほこら》(これは前におはなしした観音です)の中へ入れて飾って置きました。これは西町時代のことであります。
 ちょうどその頃、彼の後藤貞行氏は馬の彫刻のことで私の宅へ稽古《けいこ》に来ていた時分、親しみも一層深くなっていた時ですから、或る日、私の本尊の観音様の祠を開《あ》けて見ると、中に小さな不動様の厨子があるので、それを見ると、非常に欲しくなったらしいのです。
 初めの中《うち》は後藤氏も、あの不動さまは実に好いと褒《ほ》めていた位でしたが、いかにも心が惹《ひ》かれたと見えて、
「高村さん、どうか、私に、あの不動さ
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