い。二人や三人では動かすことも出来なくなった。しようがないから人足を頼んで、いろいろ仕掛けをして、ずるずると下へ辷《すべ》り卸したということですが、こういうことには経験のありそうなはずの山の人間でも智慧《ちえ》が働かなかったか二つに割ってしまった。またわれわれにもこういうことに経験があったら、前に注意をして置けばよかったのに、経験のないため、飛んだ無駄骨《むだぼね》を折ることになりました。
 さて、山から麓《ふもと》までは、どうやら辷り落としたが、其所《そこ》から往来まで持ち出すのがまた大変……山|際《ぎわ》には百姓家の畠があって、四、五月から物を植え附けてある。その畠を転がさねば往来へ木は出ません。
「損害は賠償するから、どうか、畠を通して下さい」
 後藤君は畠の持ち主に頼んだが、どの持ち主も不承知。これには後藤君もハタと当惑しました。

「どうも面倒なことが出来て困りました」
といって後藤君は帰って来ました。
 訳は、百姓が畠を荒されるので、木を通さないということ。いろいろ相談しました結果、今度発光路へ行く時は学校用品を買って持って行こうということにしました。それはこうした山村で学
前へ 次へ
全17ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング