しました。今日でも骨身《ほねみ》に滲《し》みるようにその時心配をした事を記憶しておりますが、実は、聖上御覧の間に、楠公の甲の鍬形《くわがた》と鍬形との間にある前立《まえだて》の剣が、風のために揺れて、ゆらゆらと動いているのには実に胸がどきどき致しました。これは組み立ての時に、どうしたことか、楔《くさび》をはめることを忘れたので、根が締まっていないので風で動いたので、楔一本のため、どれ位心配をしたことか。もし剣が風のために飛んだりなどしては大変な不調法となることであったが、落ち度もなくて胸を撫《な》で卸《おろ》した次第でありました。
陛下御覧済みになりますと、引き続いて、午後一時に皇后陛下が御出御で、これもなかなか御念入りで三十分ほども御覧で御座いましたが、この時も落ち度なく役目を終ったことで御座いました。元通り取り崩《くず》してちょうど午後二時半頃一同は引き退《さが》りました。宮中にて一同|午餐《ごさん》を頂戴《ちょうだい》しまして、目出たく学校へ帰ったのが午後四時頃でありました。
当日はまことに万事が滞りなく都合よく運んだのは私どもの幸運で御座いましたが、こんな大事な場合は、能く
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