分らない。変なものが出来ましたが、張り子|紙《がみ》で上から張って見ますと、案外、ありありと大仏さまの姿が現われて来ました。
「おやおや何を拵えているのかと思っていたら大仏様が出来ましたね」
と家の者はいっております。
「大仏に見えるかね」
「大仏様に見えますとも」
といっております。大仏が印を結んで安坐している八角の台の内部が、普通の見世物小屋位あるわけになります。出来上がったので、それを例の三人の友達に見せました。
「旨く行った。これならまず大丈夫勝利だが、今度はこれを拵えるに全部で何程《いくら》金が掛かるかこれが問題です。そこで、この事は仕事師に相談するのが早手廻しでこの四本の柱をたよりにして、仕事をするものは仕事師の巧者なものよりほかにない。早速当って見よう」
ということになりました。で、御徒町にいた仕事師へ相談をすると、これは私どもの手で組み立てが出来ないこともないが、こういう仕事は普通の建物とは違い、カヤ[#「カヤ」に傍点]方《かた》の仕事師というものがある。それはお城の足場をかけるとか、お祭りの花車小屋《だしごや》、または興業物の小屋掛けを専門にしている仕事師の仕事で、一種また別のものですから、その方へ相談をしたらよろしかろうというのでありました。それではその方へ話をしてくれまいかと頼むと、早速引き受けて友達を伴《つ》れて来てくれました。

 私はそのカヤ[#「カヤ」に傍点]方の仕事師という男に逢って見ました。
 私の肚《はら》の中では、この男に逢って雛形を見せたら、恐らくこれは物になりません、というだろうと思っておりました。もし、そういってくれたらかえって私には好《よ》かったので、この話はそれで消えてしまう訳。もしそうでもないと、話が段々大きくなって大仏が出来るとなると、私の責任が重くなる。興業物としての損益は分りませんが、もし損失があっては資本を出す考えでいる野見さんに迷惑が掛かることになります。どうか、物にならないといってくれれば好《い》いと思って、その男に逢いますと、仕事師は暫く雛形を見ておりましたが、
「これはどうも旨いもんだ。素人《しろうと》の仕事じゃない。この梯子《はしご》の取り附けなどの趣向はなかなか面白い。私どもにやらされてもこう器用には出来ません」
といって褒《ほ》めています。それで、これを四丈八尺の大きさに切り組むことが出来るかと
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