く、人を呼ぶのに、あんなことでは余り智慧《ちえ》がない。何か一つアッといわせるようなものを拵えて見たいもんだね」
「高村さん、何か面白い思い附きはありませんか」
というような話になりました。
「さようさ……これといって面白い思い附きもありませんが、何か一つあってもよさそうですね。原の中へ拵えるものとなると、高値なものではいけないが、といって小《ち》っぽけな見てくれのないものでは、なおさらいけない……どうでしょう。一つ大きな大仏さんでも拵えては……」
笑談《じょうだん》半分に私はいい出しました。皆が妙な顔をして私の顔を見ているのは、一体、大仏を拵えてどうするのかという顔附きです。で、私は勢い大仏の趣向を説明して見ねばなりません。
「大きな大仏を拵えるというのは、大仏を作って見物を胎内へ入れる趣向なんです。どのみち何をやるにしても小屋を拵えなくてはならないが、その小屋を大仏の形で拵えて、大仏を招《まね》ぎに使うというのが思い附きなんです。大仏の姿が屋根にも囲《かこい》にもなるが、内側では胎内|潜《くぐ》りの仕掛けにして膝《ひざ》の方から登って行くと、左右の脇《わき》の下が瓦燈口《かとうぐち》になっていて此所《ここ》から一度外に出て、印《いん》を結んでいる仏様の手の上に人間が出る。其所《そこ》へ乗って四方を見晴らす。外の見物からは人間が幾人も大仏さまの右の脇の下から出て、手の上を通って、左の脇の下へ這入《はい》って行くのが見える。それから内部の階段を曲りながら登って行くと、頭の中になって広さが二坪位、此所にはその目の孔《あな》、耳の孔、口の孔、並びに後頭に窓があって、其所から人間が顔を出して四方を見晴らすと江戸中が一目に見える。四丈八尺位の高さだから大概《あらまし》の処は見える。人間の五、六人は頭の中へ這入れるようにして、先様お代りに、遠眼鏡《とおめがね》などを置いて諸方を見せて、客を追い出す。降りて来ると胴体の広い場所に珍奇な道具などを並べ、それに因縁を附け、何かおもしろい趣向にして見せる。この前笑覧会というものがあって阿波《あわ》の鳴戸《なると》のお弓の涙だなんて壜《びん》に水を入れたものを見せるなどは気が利《き》かない。もっと、面白いことをして見せるのです……」
「……そうして切《きり》の舞台に閻魔《えんま》さまでも躍《おど》らして地獄もこの頃はひまだという有様で
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