幕末維新懐古談
叡覧後の矮鶏のはなし
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)渾然《こんぜん》たる

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)谷中|茶屋町《ちゃやまち》
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 さて、展覧会もやがて閉会に近づいた頃、旅先から若井兼三郎氏が帰って来た。
 いうまでもなく矮鶏の一件のことは直ぐ同氏の耳に入った。早速、同氏は会場へやって来られた。私はどうも直ぐに若井氏に逢うのが気が引けますから、はずしていると、若井氏は松尾儀助氏に向って何か話していられる。無論、今度の一件であることは分る。そこで、どういう風に松尾儀助が若井氏をいいなだめたかというと、当日同氏が、聖上へ作品を御説明申し上げた時のことをそのまま話したのである。すなわち聖上が右のチャボに御目が留まって、ほしいと仰せ出された時、右の矮鶏を彫刻した高村光雲と、依頼主なる若井兼三郎という者との間の意味合いをお話した。すなわち、かかる傑作の出来た事は、作家当人の丹誠によることもとよりなれども、美術工芸のことは他より奨励援助する厚意があって、依嘱者と作家と両々相俟たなければ、かく渾然《こんぜん》
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