自分も手間をかまわず丹念にやった仕事であるので、これならば自分のお礼の意味も満更《まんざら》ではあるまい。これがよろしかろうと思いましたので、或る日、それに熨斗《のし》を附け、病中一方ならぬ世話に預かったお礼のしるしという意を述べて、それを合田氏に贈りました。
 すると、合田氏は大変に満足した顔で、君からこうしたものを頂くことは私も心苦しいが、しかしこれは君の手になったものであり、君の心特もよく分っているので、他品とか、金銭ならばお貰いしないが、これは快く有難く貰いましょう。実は自分も日頃から、何か君に一つ拵えて頂きたいと希望しておりましたが、病後のことでもあり、いささかなりとも君に尽くした後において、こちらより物をおたのみすることは如何《いかが》かと遠慮しておった処であるが、君より進んでこれを僕に下さるとあれば、何よりのことで、甚だ心悦ばしい。と合田氏は大変によろこんでくれますので、私も日頃の念が届きやっと肩の荷を卸した気になったことであった。

 しかるに、この合田氏も貧乏では余り引けを取らぬ方で……元来、今申す通りの性格の人であるから金持ちでありようがない。それで家計の都合が悪い
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