、なかなか、まだ、そういう処までに行きませんよ。もっと修業をしなければ」
 私が答えますと、
「そんなことがあるものですか。何んでも好い。あなたの手に成ったものなら何んでも結構……是非出品して下さい」
 石川氏は熱心にいわれる。
「そう、あなたがいって下さるなら私も何んだかやって見たい気がして来ました。どんなものを製作《こしら》えましょうか」
「何んだって、あなたの好きなもので好いでしょう」
「では、何んともつかず、一つこしらえて見ましょう」
 そういって製作したのが蝦蟇仙人であったのでした。これが相当評判よろしく三等賞を貰ったようなわけで、全く光明氏の知遇によってこの縁を生じたようなわけで、それから間もなく会員になったりして、会員中の主立《おもだ》った竜池会当時の先輩は申すまでもなく、工人側でも金田兼次郎氏、旭玉山氏、島村俊明氏その他当時知名の彫刻家や、蒔絵師、金工の人たちとも知り合いましたが、その中でも石川光明氏とは特に親密で兄弟も啻《ただ》ならずというように交際しました。それで、世間では、光明氏も光が附き、私も光が附いているので、兄弟弟子ででもあるかのように、余り仲が好《い》いも
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