して、これにもなかなか掛引があるのだということです。
私の父はこういう縁日|商人《あきんど》のことについてはなかなか詳しく、自分もまた若い時は自ら手を下して地割などのことにも関係したので、時々他の縄張りのものとの間に出入りを生じ、生命《いのち》の遣《や》り取りというほどのことには至らなくても、際《きわ》どい喧嘩場などに一方の立物《たてもの》となったりしたことがあります。上野の三枚橋を中にして、双方が睨《にら》み合ってる中に、父の弟分なり乾児《こぶん》なりであった肴屋《さかなや》の辰《たつ》という六尺近くもある大男の豪のものが飛び出して、相手を一拉《ひとひし》ぎにしたので、兼松の名が一層仲間のものに知られたという話もあります、こんな話は数々あるがまず略します。
底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
1929(昭和4)年1月刊
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:網迫、土屋隆
校正:noriko saito
2006年
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