おれるので、ほんの瞬間の生々した気分を売り物にするという、まことに妙な玩具でありました。
老人はまた思い附くと何んでも拵えました。大山《おおやま》登山の行者《ぎょうじゃ》などはお得意のものであった。行者を白い紙で拵え、山を、小さな、芝居の岩山のようなものにして、登山のさまを見るようにこしらえました。指先が利《き》くので、一片の紙の片ッ端でも、この人の手に掛かると不思議に生きて来たのであります。結局《つまり》自分の感じたおもしろ味を、文字でなく、物の形にして、それを即興的に現わしたもので、当座の興でありましたが、まだその頃にはこうした趣味をよろこぶ人が多少ともあったものでありました。
底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
1929(昭和4)年1月刊
入力:網迫、土屋隆
校正:noriko saito
2006年9月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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