米俵の中に、三、四体ずつ、犇々《ひしひし》と詰め込まれ、手も足も折れたりはずれたり荒縄《あらなわ》でくくって抛《ほう》り出されてある。これは、五ツ目からこの姿のままで茶舟《ちゃぶね》に搭《の》せられ、大河《おおかわ》を遡《さかのぼ》って枕橋へ着き、下金屋の庭が荷揚げ場になっているから、直ぐ其所《そこ》へ引き揚げたものである。
 そうして、彼らはこれをどうするのかというと、仏体はそのまま火を点《つ》けて焼いてしまい、残った灰をふいて、後に残存している金を取ろうというのです。今、彼らはその仲間たちと相談して、やがて仕事に取り掛かるべく、店頭で一服やっている所でした。
 この妙な状態を或る人が見たのでした。その人は私の師匠東雲師を知っている人であった。話を聞くと、これこれというので、その人も随分驚いた。音に名高い本所五ツ目の羅漢寺の、あの蠑螺堂に納まっていた百観音のお姿が、所もあろうにこんな処へ縛られて来て、今にも火を点けて焼かれそうになっているのだから、驚いたも無理はありません。その人は、何んとかして、この危急な場合を好《い》い都合に運びたいものと考えたと見え、かねて知人である仏師東雲へこ
前へ 次へ
全10ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング