師匠の家にも三毛猫が一匹いるが、裏口《うらぐち》合せの長屋《ながや》の猫が質《たち》が悪く、毎度こちらの台所を荒らすところから、疑いはその猫に掛かっている様子であります。私は心におかしく、なかなか名案だったと思いながら、なお、台所の方へ気を附けていると、また暫くしてから、台所でガタピシと大変な物音がします。何んだろうと窺《のぞ》いて見るとお勝さんが、疑いを掛けたその裏長屋の泥棒猫を捉《つか》まえて、コン畜生、々々といって力任せに鼻面《はなづら》を板の間《ま》へ※[#「てへん+(「縻」の「糸」に代えて「手」)」、83−9]《こす》り附けております。物音を聞いて、師匠も其所《そこ》へ立ち出で、様子を聞き「それはお勝、お前が手落ちなんだ。そんなに手荒らにしなさんな。もう好いから許しておやり」などなだめている。
「いえ、いけません。此奴《こやつ》がお刺身を奪《と》ったんです。以後の見せしめに、こうしてやるのです」
と、また鼻面をいやというほど猫は※[#「てへん+(「縻」の「糸」に代えて「手」)」、83−14]られておりますから、私は、どうも甚《はなは》だ恐縮……不埒《ふらち》な奴はその猫ではな
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