幕末維新懐古談
猛火の中の私たち
高村光雲
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)大人《おとな》でも
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二、三十|間《けん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しぶき[#「しぶき」に傍点]
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私は十四の子供で、さして役には立たぬ。大人《おとな》でもこの猛火の中では働きようもない。私の師匠の東雲と、兄弟子の政吉と、私の父の兼松《かねまつ》(父は師匠の家と私とを心配して真先に手伝いに来ていました)、それに私と四人は駒形堂の方から追われて例の万年屋の前へ持ち出した荷物を卸し、此所《ここ》で、どうなることかと胸を轟《とどろ》かしている。火勢はいやが上に募って広小路をも一舐《ひとな》めにせん有様でありますから、師匠は一同に向い、
「とても、この勢いではこの辺も助かるまい。大事な物だけでも、川向うへ持って行こうじゃないか」というので、籠長持《かごながもち》に詰《つ》め込んである荷物を、政吉と父の兼松とが後先《あとさき》に担い、師匠は大きな風呂敷包みを背負《しょ》いました。
「幸吉《こうき
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