わってくれました。降りた処は雷門の直ぐ後ろで、それから大神宮の大きな花崗石《みかげ》の鳥居を潜《くぐ》り(この鳥居は後で見たら、中央からポックリと両《ふた》つに折れていました。これは柳川《やながわ》力士|雲竜久吉《うんりゅうきゅうきち》が納めたもので、その由を彫ってあった)仲店《なかみせ》を仁王門に向って、伝法院へ這入《はい》り、庭を抜けて田圃を通り、前述の新門辰五郎のいる西門を、新門の身内のものに断わって通るまでに、後を振り顧《かえ》って見ると、仲店から伝法院へ曲がる角にあった火の見|櫓《やぐら》に火が掛かり、真赤になって火柱のように見えました。
それから、左は蛇骨湯、右は清正公のあるお寺の通り、それから上野の車坂《くるまざか》の方へ真直に合羽橋《かっぱばし》を渡ると、右角が海禅寺《かいぜんじ》(これは阿波《あわ》様のお寺)、二丁ほど行くと、右側が東明寺で、左が源空寺……すなわち源空寺門前の父の家のある所で、私は久しぶり、我が家へ帰って来たのでありました。
底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
1929(昭和4)年1月刊
入力:網迫、土屋隆
校正:しだひろし
2006年2月14日作成
2006年6月21日修正
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