間に合せをして、代金を唯一目的にする……すなわち余りに商品的に彫刻物を取り扱い過ぎるところの悪習ともいえましょう。
 それに引き代え、江戸は八百万石のお膝下《ひざもと》、金銀座の諸役人、前にいった札差《ふださし》とか、あるいは諸藩の留守居役《るすいやく》といったような、金銭に糸目《いとめ》をつけず、入念で、しかも傑作を欲しいという本当に目の開いた華客《とくい》の多いこちらでは、観音一つ彫らすのでも、念に念を入れさせ、分業物の間に合せではなくして、台坐も天蓋も、これと目指した彫刻師の充分な腕によって出来たものを望むという気風がありましたから、京の寺町とは趣を異にし、芸術的良心が根まで腐るようなことはありませんでした。これは分業という話から余談にわたったが、まず以上のようなわけのものであった。



底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
   1995(平成7)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
   1929(昭和4)年1月刊
入力:山田芳美、網迫、土屋隆
校正:しだひろし
2006年2月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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