惜しいことをした」
と、残り惜しそうにいいますので、理由を聞くと、それは元《もと》、この町内にいた人だが、今は大層出世をして彫刻《ほりもの》の名人になっている。何んでも日本一のほりもの[#「ほりもの」に傍点]師だということだ。その人は高村東雲《たかむらとううん》という方《かた》だが、久方《ひさかた》ぶりに此店《ここ》へお出《い》でなすって、安さん、誰か一人|好《い》い弟子を欲しいんだが、心当りはあるまいか、一つ世話をしてくれないかと頼んで行ったんだ。俺は、今、お前の話を聞いて、その事を思い出したんだが、実に惜しいことをした……しかし、光坊、お前は大工さんの所へ明日行くことに決まってるというが、それはどうにかならないかい。大工になるのも好いが、彫刻師になる方がお前の行く末のためにはドンナに好いか知れないんだ。……という話を安さんが私の頭を結いながら乗り気になって話しますので、私も子供心にチョイと脳《あたま》が動いて、
「小父《おじ》さん、その彫刻師ってのは、あの稲荷《いなり》町のお店《たな》でコツコツやってるあれなんですか」と私は使いに行く途中にその頃あったある彫刻師の店のことをいい出し
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