て、同情ある筆で世界に伝えられたが、故国で、知音《ちいん》諸氏によって、君を追悼した登山会が催されたとすれば、君にはいい手向《たむ》けである。私も、桑港《サンフランシスコ》で発行される日本字新聞『日米』で、君とスタア博士と富士山との交渉を書いて、心ばかりの供養に代えたが、富士山の納め手拭から、この事を知ったのは、山中でひょっくり君に出逢ったようであった。
雲ゆきが怪しいので、私は多少の気がかりで、大沢の小舎を立った、すぐ眼の前には、その大沢の難所なるものが控えている。
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室と小舎とは、区別を要すべきであろうが、ここでは共通して、用いたところがある(筆者)。
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九 乱雑の美
五、六合間の等高線をゆく、御中道の大沢近くくると、にわかに婉曲《えんきょく》してひた下りに下る。大沢は谷というには浅く、沢としては大きくて深い。頂上内院火口の西壁、剣ヶ峰の側からなぎ落されて、直線に突き切ること三里、力任せにたち割った絶壁の斜面に、墜石崩石は、ざっくばらんにほうりだされている。絶壁の縦断面には、灰青色の熔岩を見ないでもないが、上を被覆《ひ
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