ばに組んで、縄でくくり、往来に突きだしてある。やはり「山」で生活している町の気分がする。
それよりも、大宮町になくてかなわぬものは浅間神社である。流鏑馬《やぶさめ》を行ったというかなりに幅のある馬場の両側に、糸垂《しだれ》桜だそうなが、桜の老樹が立ち並び、蛍の青い光りが、すいすいとやみを縫って行く間を、朱塗りの楼門に入れば、五間四方あるという向入母屋造《むこういりもやづくり》の拝殿があり、その奥には浅間造なる建築上の一つの形を作ったところの、本殿の二重楼閣が、流るる如き優美なる曲線の屋根に反《そ》りを打たせ、一天の白露を受けて冴《さ》えかえり、大野原から来る秋の冷気は、身にしむばかり、朱欄丹階《しゅらんたんかい》は、よしあったところで、おぼろげな提燈《ちょうちん》の光りで、夜目にも見えないが、一千一百年以前からあったという古神社を継承した建築の、奥底に持つ深秘の力は、いかにも富士の本宮として、人類が額《ぬか》ずくべき御堂を保ち得たことを喜ぶばかり。神さびた境内にたたずんで、夜山をかけた参詣の道者が、神前に額ずいての拍手《かしわで》を聞きながら、「日本の山には、名工の建築があるからいい
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