から二体浮び出た、火影に映る消防夫の姿のやうに。
乗客一同は又迎へられて、船中の人となつた、榎の渡しを横に見て、川田《かはだ》温田《ぬくだ》の二村のあるところで、乗客は大体どつちかの村へ下りた、饂飩五函、塩一俵が岸に揚がつた、村近くなつて、峡流《カニヨン》も静かになり、米を舂く水車船も、どうやら呑気らしい、御供《ほや》といふ荒村にしばらく船をとゞめて、胡桃の大木の陰になつてゐる川添ひの、茶屋で、私たちは昼飯を食べた、下条村の遠州《ゑんしう》街道《かいだう》が、埃で白い路を一筋、村の中を通つてゐる、ここで、又残りの荷があらかた卸された。
今まで峡流《カニヨン》には珍らしいほど、屈曲の少なかつた天竜川は、こゝで急な瀬と、深い淵を挟んで、大屈曲をしてゐる、崖は漆喰で固めたように、石を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]みつけ、それに根を下した紅葉の一枝が、紅を潮《さ》してゐる、日は少し西へ廻つたと見えて、崖の影、峯巒《ほうらん》の影を、深潭に涵《ひた》してゐる、和知川《わちがは》が西の方からてら/\と河原を蜒《うね》つて、天竜川へ落ち合ふ。
両岸が円
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