陸《をか》に上げてしまつた。ビシヨ濡れになつても、かまはぬと最後まで、残つてゐた私をも、追つ立てるやうにして、陸上の人としてしまつた。
空に引き渡した鋼線《はりがね》に縋つて通ふ渡し舟を、見ながら、私たちは、河原の石コロ路を、二三町も歩いた、傘も下駄も、船の中へ置き去りにして、尻ッ端折になつて、炎天の焼石の上を、腫れ物に障るやうに足袋裸足で歩いてゐる乗客もある、河原には埃を浴びて白くなつた萱草《かんぞう》の花の蔭から、蜥蜴《とかげ》の爬ひ出す影が、暑くるしく石に映る、今夜の泊りの「満島《みつしま》まではまだ四里半もありやす」と、道伴れになつた[#「なつた」は底本では「なつは」]同船の客から聞いて、傘をさしかけ、磧《かはら》にしやがんで、下つて来る船を待つ、河原に焚火をした痕と見えて、焦げた薪や、灰が散らばつてゐる、溺死人でも、あつたんぢやないか知らんと思ふ。
暫らく停まつて呼吸を入れてゐた船は、こつちを目がけて、走つて来る、難所中の難所といふ、やぐらの瀑へかゝつて来たときは、波から三尺ばかり船体が乗り出したと思ふと、水煙が噴水の柱のやうに立つて、船頭の黒い立像が、水沫《しぶき》の中
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