を冠った二箇の砂山が、山腹から約百尺も顔をもちあげて、裾を南へ引いているのを見るであろう、あれは二ツ塚という二子式の火山で、しかも側火山(学者によっては、寄生火山という言葉を用いているが、寄生植物のように、別種のものが、他種の本体に倚《よ》りかかっているのでないから、これを寄生というのは、いかがかと思う)であるが、この二ツ塚などには、山から吹きおろす風の斑紋までが、分明に黒砂に描き出されている。火山の中は凡《す》べてが「大きな単純」であるから、注意して観察すれば、風の描いた紋も解るのである、もっともこういう現象は、火山とのみ限られることではないが、火山のような柔らかい印象を受けやすい皮膚であればこそ、それを劃然と、鮮明に残しているのである。
 以上は、火山を、それ自ら単独のものとして、観察したのであるが、このような能動的な、積極的な、神経が尖って、触覚が鋭敏な火山が、日本アルプスの大山系に潜ぐり込み、そこから赤裸になって躍《おど》り出したところに、いかばかり特色のある山岳景を作り出したか、私は次にこれを言って見たいのである。

 日本北アルプスの中、槍ヶ岳山脈へ登山する根拠地として、年
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