limbing である、土に執著があるならば、岩石に執著があるならば、アルプスのように、氷雪の上を釘靴《ネイルド・ブーツ》や、カンジキを穿《は》き、アルパイン・スチックを突き立て、二重服三重足袋の旅行をするよりも、草鞋《わらじ》で岩石をザクザクやりながら、手ずから火口壁の赭褐《しゃかつ》色なる大塊を握《つか》むべきである、そこに地心の十万億土から迸発《ほうはつ》した、赤焼のした、しかしながら今は凝固した、冷たい胆汁《たんじゅう》に触れることが出来るのである。
 しかも火山を絶対に美しく、完全に美しく見せるのはその輪廓である、私はラスキンをかなり読んだ方だが、火山を知らない人の風景論は、私には異なれる言語で、話しかけられるような、まだるッこさを感じないでもない、あの人の『ヴェニスの石』の第一巻「装飾の材料」で、シャモニイ渓谷の或山で見た氷河、それはアルプスの氷河としては、第二流に属するに過ぎないものであるそうだが、一|哩《マイル》の四分の三ぐらいの長さの線を、今までの生涯(第一巻の出版は彼が三十三歳の時である)中に見た、最も美しい、最も単純な線であると讃嘆しているが、私は「ラスキンは不仕
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