、藍玉のように空間に繋《つな》がっている、私は単なる詠嘆が、人生に何するものぞと思っている、また岩石の集合体が、よし三万尺四万尺と繋がって虚空に跳りあがったところが、それが人間に何の交渉があるかと顧みても見た、しかしながら、私という見すぼらしい生活をしている人間に比べて、彼らは何というブリリアントな、王侯貴族にもひとしい、豪奢《ごうしゃ》でそして超高な、生活をしているのであろうか、私は寂しい、私の生活は冷たい、私に比べれば、岩石は何という美わしい色彩と、懐つかしい情緒をもっているのであろう、私は胸を突き上げられるようになって、岩に抱きついて、やる瀬のないような思いに、ジッとなって考えこんだ。
 岩石の長い軌道は、雲から雲に出没して、虚空を泳いでいる、そうして日本本州の最高凸点なる、飛騨と信濃の境になっている、信濃方面の斜めな草原に下りたときは、ほっと一と息|吐《つ》けたが、飛騨境の、稜々として刃のような岩壁を、身を平ッたくして、蝙蝠《こうもり》のように吸いついて渡ったときには、冷たい風が、臓腑まで喰い入って来るように思われた、蒲田の谷を、おそろしく深く、底へ引き落されるように見入りなが
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