って白く、谷間に咲くウツギの花も、ぼんやりと白く、空は匂いの高い焼刃に、吐息がかかったように、うす曇りになる、木立の中では、もう日暮に近くなって、うす暗いのであると思ったのに、木のないところへ来ると、空は日が未だ高くて、篩《ふるい》をかけたように、青葉の上に金光をチラリと流して、木の下道にのみ、闇がさまよっている。
しかしその金光も、いつまで永く見るわけには行かなくなった、霧が山の上をひたして烟のように、水沫《みなわ》のように、迷いはじめる、峠が高くなるだけ、白いシシウドや、黄花のハリフキが簇《むら》がって、白い幕の中で黄色い火を燈《とも》したように、うすぼんやりしている、この頃は山登りの人が多くなったと見えて、竹の皮や、脱ぎ捨てた草鞋が、散らばっている、白樺の裸の幹がすくすくと立って、三角の葉が頭の上でけぶるように、梢の傘をひろげている、朽の大木も多く見えて、浅青や濃緑がむらむらと波のように、たぎり返っている、峠の頂上は凹んで見えていながら、路は近そうで、幾度も折り返えしては登って行く、火事場の後のように、霧の煙はぼうぼうと、方々から白く舞いあがって、絶えるかとおもえばつづき、森の
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