に、白くギラギラと輝いている、更に北岳は奥の奥だけあって山の胸にかけて、一里以上もある、凝れる氷を幾筋か白く引いている、自分は北方の白馬岳で、氷河的雪の壮観を説くのは、南の印度《インド》で、ジャングル的藪の美を説くのと同じく、当然と思っている、しかしながら偉なる哉《かな》、南方の雪[#「南方の雪」に白丸傍点]! 黒潮|奔《はし》れる太平洋の海風を受けて、しかもラスキンのいわゆる、アルプスの魔女が紡《つむ》げる、千古の糸にも似た雪の白い山! 讃嘆せよ、讃嘆せよ、太平洋岸の表日本には、東に富士あり、西に我白峰がある。
 N君からは――ちょうど亜米利加《アメリカ》人が、ルーズベルトの一挙一動を、電報で知らせてよこすように、白峰山脈の一陰一晴を知らせて来る、「一昨日朝、初めて西山一帯に降雪あり、今晩半時ばかり、日出前――日出――日出後の山と、その空との、色彩の変化を観察す」(十一月十七日)とある、そうかと思うと「灰汁《あく》のような色の雪雲、日に夜叉神《やしゃじん》(峠の名)のあたりより、鳳凰、地蔵より縞目を作《な》して立ち昇り、白峰を見ざること久し」(十二月十七日)と渇《かつ》えた情を愬《う
前へ 次へ
全14ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小島 烏水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング