つも列《つら》なって、同心円が出来ているのもある。ちょうどボートレースに、櫂《かい》からの雫が、河面にポタポタして、小さな円い輪を描いたのに似ている。これも風力が、雪片を飛散させて作ったのであろうと思われる。
 最後に雪の「カアル」(Kar)またはサアカス(Cirques)というものについて述べる。これは雪が深く、岩壁に喰い入って、そこだけを、虫歯の洞のように、深く刳《えぐ》るので、刳られた崖が、椀を半分欠いたようになって、立っているのがそれだ。そこを刳りつくすと、また雪がずり下りて、一段低い所へ同じものを作るので、日本北アルプスにはそれが頗る多い。その最も標本的に現われているのは、越中薬師岳(二九二六米突)、信州黒部の五郎岳(二八四〇米突)などで、一体に槍ヶ岳から以北、即ち立山山脈、または後立山山脈に頗る多い。私が薬師岳で観察した所に依ると、凡《す》べてのカアル皆然《しか》りとは言われないが、カアルの初期は、雪が横一文字に堆《うずたか》くなっているに過ぎないが、その両端の垂下力が遅く、中央が速いためか、第二期には三日月形に歪み、更に拡大して勾玉《まがたま》形になって来ている。中には勾
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