、それだから、その擦痕も、水のは凹形になっているが、万年雪や氷河のは、凸形になっている、白馬岳の擦痕は、やはりこの凸形の方に属するらしく、富士で見たのは、いずれかと言えば凹形の方に属している。

      四

 山上において、積雪がどういう状態をしているかという事は、下界の人々には解らぬことであるから、最後にこれを説こうと思う。高峰の雪というと、誰でもその高潔を予想するが、新雪はともかく、いわゆる万年雪の状態にあるものは、表面は雨水が流れたり、崖の砂が塗られたり、偃松の枯枝が散ったりして、存外に汚ないものが多い。それも、一皮|剥《む》けば純白である。それは上皮の雪は、気泡を含むことが多いから、白いのであるが、下の方まで穿って見ると、圧搾《あっさく》のために、白さが次第に減じて、氷粒になりかけて、普通の氷に見られるような透明な碧さを有《も》っている。「万年雪」の氷っているものは、幾らかの碧味《あおみ》を見る。しかし大石の下になって凍っている雪などを見ると、内部からの光の反射を妨げるために、暗黒で透明で、瀝青《チャン》の色に見えることがある。
 また万年雪を、半氷半雪状の凝河として観察
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