ちる雪の量が、次年の夏に悉く(でなくともほぼ全体)消費される地線を指すので、一年または数年の経過を含めてのことである。――高山の中腹では、この雪線を境としてその上に雪が堆積して、万年雪となり、その万年雪の一部が氷河の運動を起して、徐々《そろそろ》と下落し、遅かれ早かれ、融解するのである。
 但し花崗岩や片麻岩質の、石が硬くとも分解しやすい山(日本南アルプスの駒ヶ岳山脈や、関東山脈の西端、甲武信三国境界附近の、花崗岩塊にこの種の高山が多い)は、岩石大崩壊のために遠望すると白くなって雪と紛《まぎ》らわしいが、久しく空気に晒《さら》されているので、雪に比べると晶明な光輝が乏しいので、あまり遠からぬ距離からは、容易に区別される。
 かかる高山の雪は、何時《いつ》頃降るだろうか。
 一体高山の初雪というのは、改まった暦の初めに降るという意味なのでなく、雪の消滅時季なる夏を通過してから、後に初めて降る雪を言うのである。故に一月元旦に降ったからとて、必ずしも初雪とはいわず、前年の九月や十月頃に降った方のを、かえって初雪と称する。それも山に常住して言うのではなく、遠望して言うのだから、世に報告された初雪なるものが、正しいか否かは疑問である。いわゆる初雪は、一昨々年の調査によると、
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鳥海山(二千百五十七米突) 十月 二日  戸隠山(二千四百二十五米突) 十月 九日
妙高山(二千四百五十四米突)十月 九日  黒姫山(一千九百八十二米突) 同上
八ヶ岳(二千九百三十二米突)十月 十日  刈田岳(一千八百二十九米突) 十月十四日
岩木山(一千五百九十四米突)十月十五日  八甲田山(一千八百五十二米突)同上
槍ヶ岳(三千百八十米突)  十月十九日  白馬岳(二千九百三十三米突) 同上
吾妻山(一千八百六十米突) 十月二十日  大日岳(一千三百九十米突)  同上
四阿山(二千三百五十七米突)十月二十日  阿蘇山(一千五百八十三米突) 十一月廿五日
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この標高は槍ヶ岳と白馬岳とを除いて、従来の地理書に従ったのであるから、当にならないものである。
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で、北から中央、それから南と及ぼして雪の遅速が解る。そうして多くは、その前年または前々年と比べても、同一山において、十日内外の遅速があるのに過ぎないというのであるから、先ず大概の見当
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