かた》まったのも沈み、琺瑯《ほうろう》質に光るのもある、蝶は、水を見ないで石のみを見た、石を見ないで黄羽の美しい我影を見た、影と知らずに雌《め》と見たか雄《お》と見たか、あるいは水の玻璃層は、人間には延板のように見えても、蝶には何でもないのか、虚空の童女は、つと水底の自分を捉えようとして、飛びつくと倏《たちま》ち渦まく水に捉えられた、一、二間流されながらも濡れ羽を震って悶えた、それでも反動で二、三尺空へ※[#「風+陽のつくり」、第3水準1−94−7、157−3]《あが》った、助かったと胸を撫で下して見ているうちに、また飛び込んだ、今度も必死になって羽を顫《ふる》わしたが、水は苦もなく捲き込んで、遠慮なく流れて行く、澄ました顔で流れている。
底本:「山岳紀行文集 日本アルプス」岩波文庫、岩波書店
1992(平成4)年7月16日第1版発行
1994(平成6)年5月16日第5刷発行
底本の親本:「小島烏水全集」全14巻、大修館書店(1979年9月〜1987年9月)
入力:大野晋
校正:地田尚
1999年9月20日公開
2003年9月15日修正
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