の到来を待つ、待機の姿勢が必要です。運は寝て待て[#「運は寝て待て」に傍点]、ではなくて、少なくとも練ってまてです。かりに説くべき人があっても、聞くべき人がなければ、説くことはできません。また聞くべき人はあっても、説くべき人がなければ、聞くことができないのです。説く人と、聞く人との因縁[#「因縁」に傍点]が相応し、和合する所に、はじめて聞く事もでき、説く事もできるのです。何事も、世の中の事は、みな「縁」です。しかしその「縁」は、たちまちにして来《きた》り、またたちまちにして去るのです。因縁はすべて[#「因縁はすべて」は太字]「一|期[#「一|期」は太字]《ご》一|会[#「一|会」は太字]《え》」です。聴くべき時に聞き、味わう時に味わわねば、いつになっても聞く事もできなければ、また知る事もできないのです。世に「急いで[#「急いで」に傍点]結婚して、ゆっくり後悔する」という諺もありますが、それはあながち結婚にかぎったことではないのです。いたずらに急ぐ必要もありませんが、しかし、「仏法には明日というべきことあるべからず」と古人も誡めています。いつもいつも、「明日」と約束ばかりしていると、永遠に仏教を味わい、人生のほんとうの意味と価値をあきらめず[#「あきらめず」に傍点]に死んでゆかねばなりません。すべからく私どもは因縁に随順[#「随順」に傍点]してすみやかに般若の智慧《ちえ》を磨《みが》く事によって、まさしくさとりの世界をハッキリ味得せねばなりません。



底本:「般若心経講義 高神覚昇」角川文庫、角川書店
   1952(昭和27)年9月30日初版発行
   1967(昭和42)年5月30日改41版発行
   1973(昭和48)年3月30日改版12版発行
※校正には「角川文庫」(1979(昭和54)年7月30日改版22版)を使用しました。
入力:多田克也
校正:大野晋、Juki
2006年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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